2020.08.04
革にはたくさんの種類がありますが、今回は「牛革」と「豚革」についてお話します。
古くから皮革製品に利用されてきた「牛革」、唯一国内で飼育から皮革製品まで一貫して行える「豚革」、それぞれに特徴があります。
一体どんな違いがあるのか、見ていきましょう。
目次
1.スキンとハイドの違い
今からお話していく中で「スキン(skin)」と「ハイド(hide)」という言葉が出てきます。
この2つは、革になる前の「原皮」を重さによって分けた呼び名。
成牛の皮や馬の皮など25ポンド(約11キログラム)以上あるものは「ハイド」、子牛や羊の皮など小さく軽い皮もしくは爬虫類などの皮は「スキン」と呼ばれます。
2.牛革の種類について(月齢別)
2-1.カーフスキン
生後6か月以内の子牛の革を指します。
生まれてから間もないので生活による傷が少なく、繊維が細かく柔らかで滑らかな手触りが特徴です。
また、原皮の流通が少ないため国内で生産しているタンナーはほぼ有りません。
この質感と希少性から高級素材として有名で、特に生後3か月以内の子牛からとれるベビーカーフは最高級として扱われます。
ベビーカーフ
カーフと比べてもさらに柔らかく、カーフが通常1枚120デシ(革の単位:1デシ=10cm×10cm)程なのに対してベビーカーフは70デシ程度しかありません。
流通量もかなり少ないがゆえに、高級ブランドで多く使用されています。
2-2.キップスキン
生後6か月から2年までの牛から取れる革です。
カーフスキンと同じく子牛なので、傷が少なく表面がきめ細やかなことからカーフスキンに次いで質のいい革と認められています。
加えて、繊維の密度がカーフスキンより高く丈夫なため、カーフスキンとステアハイドの中間のようなバランスの良い革といえるでしょう。
しかし、カーフスキンとキップスキンを明確に分けているのは日本国内だけで、欧米ではどちらもカーフスキンと呼ばれているそうです。
2-3.ステアハイド
牛革の中でも最もポピュラーな素材ですね。
ステアとは食用牛の意味で、生後3か月から6か月の間に去勢され生まれてから2年以上経っている雄牛の革を指します。
26キログラム以上をヘビーステア、22~26キログラムをライトステアと呼びます。
比較的厚みが均一かつ耐久性に優れているのが特徴で、成牛の革にしてはきめが細かくキップに近いです。
主に食用として生育されている牛から革を取るので供給が安定しており、1枚の面積が大きく流通量も多いため幅広い皮革製品に利用されます。
2-4.カウハイド
生後2年を過ぎ、出産を経験した雌牛の革のこと。
皮の厚さは雄牛より薄く、きめ、強度などはキップスキンとステアハイドの中間の特徴を持ちます。
また、出産を経験しているためお腹周りの繊維密度が薄くなっています。
カルビンハイド
未産で生後2年以上の雌牛の革はカルビンハイドと呼ばれます。
日本では牛の6割が肉用牛で4割が乳用牛ですので出産を経験しない雌牛は珍しく、あまり流通していないのです。
そして、カウハイドとの大きな違いは革の繊維密度。
カウハイドは上記の通り出産を経験することでお腹周りの皮が伸びてしまいますが、カルビンハイドは繊維密度が均一のままなので成牛革の中で最も美しく上質と言われています。
2-5.ブルハイド
生後2年を経過し、去勢されていない雄牛の革です。
去勢されていない雄は雄同士で闘いを繰り返すことが多く、皮には多くのバラキズが入っています。
加えて、シボが大きく牛革の中でも特に硬く厚く丈夫である反面、柔らかさはあまり感じられないので汎用性は低いと言えます。
元のバラキズを活かした、ワイルドな皮革製品の加工に向いています。
バラキズ
雄牛同士の決闘や怪我、虫刺され等が原皮に傷跡として残ったもの。
2-6.ハラコ
毛を残した子牛、子馬、成牛や馬の革に、染色作業を行って柄を付けた革です。
漢字では「腹子」、英語では「Unborn Calf」と呼ばれています。
元々は出産されていない(お腹の中で死んでしまった)子牛の革のことを言い、数も極端に少ないことから希少価値があり高級素材とされてきました。
しかし定義通りのハラコだけだとしたら、流通量から見て母牛のお腹でなくなる不幸な子牛の数が膨大すぎます。
革はあくまで、食肉加工の副産物として生まれるもの。
つまり現在私たちが普段目にするハラコの大半が、子牛・子馬・成牛や馬の毛付革といった毛皮とも言われています。
アニマル柄プリントの毛がついた皮革製品全般もハラコと表記される場合があるということを、この記事を通して知っていただけたら幸いです。
3.豚革の種類について(加工法別)
<銀面>
豚革はピッグスキンとも呼ばれ、銀面を貫通する3本1組の毛が特徴。
その毛によって革表面には3つずつ穴があいているので、見分けがすぐつきます。
<床面>
薄くて軽く摩耗に強いという特性を持ち、その通気性のよさから靴の中敷きに使用されることも多いです。
表皮の摩耗の強さは特殊加工にも向いており、プリントや型押し、絞り加工されているものも。
加工の仕方によって硬くも柔らかくもなり、さらに半透明に仕上げることもできる汎用性があるため、有名ブランドで使用されることもあります。
様々なメリットがありながら、牛革より価格が安い傾向にあるのでコストパフォーマンスのいい革と言えるでしょう。
余談ですが、豚革とよく似た革に「ペッカリーレザー」というものがあります。
ペッカリーとは南米の熱帯雨林に生息する哺乳類のことで、「3つの毛穴」が豚革と共通しているため間違えやすいです。
豚革商品を選ばれる際はお気を付けください。
3-1.アメ豚
古来は豚の白い革に亜麻仁油を塗布した後、表面を石で磨き上げるという製法で作られていました。
現在は、植物タンニン鞣しした革を染色後にグレージングで透明感あるアメ色に仕上げるという製法がとられています。
使い込むほどに深い艶が出てきて、経年変化が楽しめるのが特徴。
良質の豚革から作られた「アメ豚」は牛革の高級皮革「カーフスキン」より高級な革として取引されているところもあります。
亜麻仁油
アマ科の一年草「亜麻」の種子「亜麻仁」が原料です。古くから西洋では食用として使われ、含まれる油分は30~40%です。
グレージング
革表面の滑らかさと艶を出すために行われます。
タンパク質系の仕上げ剤やワックスを表面に塗布し、ガラス又はメノウで強く磨くことで光沢を出します。
圧力をかけながら加工するので摩擦熱が発生し、グレージングされた革は銀面にある細かいしわや毛穴がつぶれているのが特徴。
3-2.ピッグスエード
クロム鞣しの豚革の床面をサンドペーパーでこすり、起毛させた革のこと。
牛のスエードよりも繊維が細かく手触りが良いので、高級感があります。
また、起毛させることにより豚革の毛穴が目立たなくなるため人気があります。
3-4.豚生皮(ぶたきがわ)
皮を鞣す前に乾燥させた半透明の皮です。
鞣す前なので、表記は「皮」になりますね。(革の基礎 ~皮?革?何が違うのかご説明します【タンナーで皮から革へ】~参照)
水分を与えると柔らかくなり乾燥すると固くなるので、好きな形に成型できる特性やその透明感からランプシェードやコサージュなどデザイン性に富んだ製品に使用されています。
4.国産豚革の魅力
豚革の生産が始まったのは明治時代から、食肉用の豚から取れる革を再利用する方法として広まり始めました。
そして戦後の洋食ブームによって豚肉の消費率が高くなり、生産量がさらに伸びたといわれています。
現在は東京都墨田区にて日本で使われる約90%の豚革を生産しており、その中でも皮革関連の企業が集中しているのは「東墨田」という地域。
鞣しの副産物である油やゼラチンを利用した油脂工業も盛んな場所です。
東京で豚革タンナーが発展している理由に、よく言われる「関西は牛肉、関東は豚肉」と言われる食文化も関連しているのかもしれませんね。
ウォッシャブルスキンの開発や豚生皮の半透明になる特性を生かしたアクセサリー作りなど、最近では国内の安定的な原皮の供給という強みを活かし、豚革を主役にする取り組みも広がっています。
国産豚革に使用されるのは「三元豚」という様々なかけ合わせの中から生まれた品種だそうで、毎月100万近くの国産豚原皮が輸出されています。
国産豚革の魅力は、皮が大きくあまりキズの入っていない綺麗な肌。
通常豚は牛などより活動的なため、キズが入っていることが多いです。
しかし、国産豚革は比較的キズが少なくきれいな仕上がりとなっているので世界的にも高い評価を受けているのでしょう。
動物愛護やTPP協定などの影響を受けている皮革業界ですが、地場産業として豚革産業のさらなる発展を期待したいですね。
5.まとめ
今回は革として最も流通量の多い「牛革」と東京都の特産品でもある「豚革」についてお話ししました。
「革」と一言で言っても、動物や月齢、加工の仕方によって全く違う特徴を持っているのが面白いですね。
まだまだご紹介したい革のおはなしがあります。
引き続きお付き合いください。
それでは、また次のページでお会いしましょう。
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