革の基礎 ~代表的な鞣し(なめし)革の種類と仕上げ方法~

2020.09.28


                     

こんにちは。リペアスタジオREFINEです。

以前こちらのPageでもおはなししたように、皮を革へ加工する過程で大切なのは「鞣し(なめし)」。

皮はそのままだと腐敗してしまい、乾燥すると板のように硬くなってしまいます。

その欠点を取り除く方法として、「鞣し」が発達してきました。

今回は、そんな「鞣し」について見ていきます。

                     

                     

1.タンニン鞣し

植物の樹皮から抽出した渋液(タンニン)という水溶性の化合物で鞣す方法。

低いpHで淡い色、高いpHで濃い色となります。

タンニンとはポリフェノールの一種。

ワインなど口の中に入れると独特の渋みを感じる飲み物には、タンニンが含まれています。

日本では主にアカシア属植物の樹皮、特にミモザから抽出されたタンニンが鞣し剤として使用されています。

                     

<ミモザ>

                     

タンニンの比率が大きくなると防腐効果や鞣し効果が強くなり、日本で代表的な鞣し剤であるミモザエキスは6割ほどがタンニンです。

その他、チェスナットやケブラチョ、ミロバランといった植物などが使用されることも。

タンニン鞣しの製法は「ピット製法」と「ドラム製法」の2つです。

                     

                     

1-1.ピット製法

複数の槽に濃さや成分が異なるタンニン鞣し剤を入れ順番に漬けこんでいく製法を、ピット製法と言います。

じっくりとタンニンを革の中心まで浸透させるので革が丈夫になり、革への負担が少ないため仕上がりも綺麗になります。

しかし、水槽で場所をとるので製作量を増やせないというデメリットも。

加えて、濃度の異なる水槽に順番に漬けこんでいくので手間暇がかかり、設備のコストが高いが故に完成した革の価格はどうしても高くなります。

                     

                     

1-2.ドラム製法

タンニン剤の水溶液と原皮をドラムへいれて、まわして浸透させる製法です。

比較的短時間で鞣すことができるので近年はこちらの製法が主流と言えますが、ヨーロッパの伝統的なタンナーや日本の栃木レザーなどでは、あえてピット製法を採用しています。

出来た革はずっしりと重厚で硬く、長年使い込むことで独自の風合いとフィット感が出てくることが特徴。

育てていく楽しみのある革と言えます。

水に弱く変色しやすい分適度なメンテナンスや管理が必要となりますが、その浸透性を活かしオイルや染料を革の中心まで浸透させている製品もあります。

                     

例えば、イタリアのタンナー「バダラッシカルロ社」で作られている「ミネルバリスシオ」という革。

製品になった後でもじわじわと革の表面にオイルがにじみ出てきて、独特な風合いを楽しむことができます。

バダラッシカルロ社についてはこちらのPageでもおはなししています。

                     

                     

2.クロム鞣し

効率的に革を作るように開発された、ドラムを使用し塩基性硫酸クロムで鞣す製法。

コストを抑えつつ短時間で大量に鞣すことができます。

クロム鞣しを行った原皮はウェットブルーと呼ばれる水色になり、「薄く軽くて柔らかい、そして伸縮性に富む」といった特徴を持ちます。

加えて、キズへの耐久性があり、衣料品やバッグなどの加工に向いている革と言えますね。

しかし、タンニン鞣しと違い経年変化を期待することはできません。

また、重金属系の鞣しなので、アレルギー体質の方には稀に反応がでることがあるようです。

                     

                     

3.その他鞣し

3-1.コンビネーション鞣し

2種類以上の鞣し剤を使用した鞣しのこと。

複数の特徴を付加したり、1種類の鞣しによる欠点を補えるのがコンビネーション鞣しの利点といえるでしょう。

基本的に、タンニン鞣しとクロム鞣しの2つを組み合わせた製法を指します。

クロムとタンニンの配合比率によって仕上がりは大きく変化し、各タンナーはその割合を安定させるため日々研究を重ねているそう。

耐熱性や発色の良さといったクロム鞣し革の特徴と、コシのある質感や経年変化が楽しめるといったタンニン鞣し革の特徴の両方を持ちます。

                     

                     

3-2.油鞣し

動植物の油を用いて皮を鞣す製法。

アルデヒドとの複合鞣しで行われることが多いです。

油鞣し革として代表的なのは、セーム革。

本来はカモシカの皮を鱈肝油で鞣した革を指しますが、一般的にはキョンや鹿、羊、山羊などの皮をアルデヒド鞣し剤と鱈肝油を用いて鞣した皮革もセーム革と呼ばれます。

                     

<キョン>

                     

とても柔らかく吸水性が良いのが特徴で、油を使用していることから適度の親油性があり種類によっては洗濯が可能。

ジャケットや手袋など衣料品だけでなく、デリケートな貴金属のお手入れ用や洗顔用など様々な用途で販売されています。          

吸水性をアップさせた人工セーム革は、洗車で使用されているのをよく見かけますね。

                     

古典的な油鞣しとして有名なのは、姫路白鞣し。   

                     

<姫路城>

                     

姫路の皮革製造技術の始まりは平安時代までさかのぼると言われており、明治時代にはパリの万博で銅賞を受賞しているそうです。

千年以上の歴史がある姫路白鞣しは、薬品を一切使わず水・塩・菜種油のみで鞣します。

その特殊な製法の為、鞣し期間はなんと1年。

染料を使用せず原皮本来の肌の色に仕上げることが特徴で、優しい色合いが印象的です。

現在は技術を受け継ぐ方が少なくなってきているようですが、日本古来から続く美しい革をこれからも作り続けていただきたいですね。

国内外のタンナーについてはこちらのPageをご覧ください。

                     

                     

4.仕上げ方法:塗膜の透明度による分類

4-1.素仕上げ(ヌメ革)

ほとんど仕上げ剤を使用しない仕上げ方法。

素仕上げは、肌触りや質感をダイレクトに味わえる革です。

しかし逆を言えば、バラキズや血筋がそのまま革の表面に。

また、水で濡れるとシミができやすいのでお手入れには注意が必要です。

                     

                     

4-2.染料仕上げ(アニリン仕上げ)

アニリン染料を染みこませ、革の素材感を活かしながら色を付けることができる仕上げ方法。

染料を革の表面にのせるのではなく浸透させるだけなので、素仕上げと同様に革の表面に傷があればそのまま出てしまいます。

イタリアンレザーなどもほとんどが染料仕上げで、革の繊維の閉まり具合などによって色の付き方が変わると言われています。

                     

                     

4-3.顔料仕上げ

スプレーなどを使用し、表面全体に顔料を吹きかけて革の上から色をのせる仕上げ方法です。

鮮やかな着色ができ、革の仕上がりを均一にすることができるのが特徴。

ただ、表面をコーティングしてしまうので、革らしい質感は無くなると同時に経年変化は楽しめません。

                     

                     

5.まとめ

「鞣しや仕上げ方法で全く異なる表情になる。」

これは革の魅力の一つといえるでしょう。

今回は代表的な鞣しと仕上げ方法についておはなししましたが、これはまだまだ序の口です。

また機会があれば、詳しくお届けしたいと思います。

                     

それでは、また次のPageでお会いしましょう。

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